公的機関のアドバイザーの会合にて、”DX”について議論になりました。有識者の間でも、定義や理解に差があったように感じます。それもそのはず、実際にDXの定義は変遷を遂げているからです。デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation: DX)は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念であり、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と表現されたことが始まりです。その後、国連開発計画(UNDP)がDXと似た概念で、デジタル化を
- Digitization(デジタイゼーション)
既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること - Digitalization(デジタライゼーション)
組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること
と定義しました。「デジタイゼーション」は、ある工程で効率化のためにデジタルツールを導入するといった部分的なデジタル化であり、「デジタライゼーション」は、自社内だけではなく、外部環境やビジネス戦略も含めてプロセス全体をデジタル化していく取り組みとされました。
経済産業省は、2018年9月に「DXレポート」を公開し、企業におけるDX推進を後押ししてきました。そして、「DX推進ガイドライン」において“DX”を下記の通り定義しています。
DXの定義(デジタルガバナンス・コード)
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
この定義が一番普及していると思いますので、DXの定義はこれを採用しています。
参考までに、現デジタル庁(当時・IT総合戦略室)が「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(2020年7月17日閣議決定)」では、“DX”を(調査会社IDCの定義を参考にしつつ)下記のように定義しています。
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。
これらを整理したものでわかりやすい図をご紹介します。デジタル化の4段階を表したものです。これを見ても、DXはデジタル化の最終段階であります。個人的にはDXの取組みについて「生産性向上・競争力向上に向け、デジタル化推進をしましょう。DXはその最終形態です」と説明しています。

出所: 「DX支援ガイダンス」 (経済産業省・2024年3月)
ちなみに、2020年12月の「DXレポート2」(下図参照)では、調査対象500社の9割以上がDXに取り組めていない実態が明らかとなり、2021年8月に、デジタルトランスフォーメーション後の産業・企業の絵姿や、変革を加速させるための課題や政策の方向性を「DXレポート2.1」として公表しています。
それから3年経った今、DXは世の中に、企業に、どのように浸透してきているのでしょうか。この特集記事では、「デジタル経営」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」について考察し、中堅・中小企業においてこの課題にどう取り組み、競争優位を確立し、ゴールとしての生産性向上と収益向上につなげていくかをお伝えしていきたいと思います。
経産省のDXレポート2(2020年12月18日)
