(4)モチベーション理論(コミュニケーション)

 コミュニケーション観点でもう一つ大切な視点が、「モチベーション」です。モチベーション理論には、有名なマズローの欲求5段階説や、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論などがあります。ここでは、「自律型組織による改革」というテーマにフィットする理論として、「自己決定理論」をご紹介します。エドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱され、人間のモチベーションを「内発的動機」と「外発的動機」に分けて考える理論になります。この理論の中核には、人間が持つ3つの基本的欲求(自律性、有能感、関係性)があり、これらが満たされると人はより内発的に動機づけられるとされています。組織において、特にプレッシャーの高まる改革プロジェクトにおいては、この3つの欲求を満たすコミュニケーションを図ることで、プロジェクトメンバーのやる気・熱意が高まると感じます。

内発的動機:活動自体が楽しく、興味や関心から自然に行動したいと思う動機です。たとえば、「知識を深めたいから勉強する」「楽しいから趣味をする」といったように、行動そのものが報酬となるため持続しやすく、高いパフォーマンスを生む傾向があります。

外発的動機:外部の報酬や圧力によって引き起こされる動機です。「お金のために働く」「評価が上がるから頑張る」といったように、外的な報酬や罰が目的となります。内発的動機に比べると持続性が低い場合がありますが、適切に使えば有効です。両者のうまいバランスが大切ですね。

3つの基本的欲求

 自己決定理論では、人が内発的に動機づけられるために以下の3つの基本的欲求が重要だとされています。

自律性(Autonomy:自分で選択し、行動の主体であると感じる欲求です。自分の意思で行動できる環境が整っていると、内発的動機が高まります。仕事や学習などの場面で、個人が裁量を持てることが重要です。

有能感(Competence:自分が成長し、スキルや知識が向上していると感じる欲求です。課題に挑戦し、成功体験を得ることで自信が深まり、さらなる挑戦への意欲が湧いてきます。適切な難易度のタスクを提供することが効果的です。

関係性(Relatedness:他者とのつながりや、周囲の人々との親密な関係を築きたいという欲求です。人間は社会的な生き物であり、周囲からのサポートや共感を得ると安心感や幸福感が高まります。職場でのチームワークや信頼関係の構築が大切です。

自己決定理論の効果

 自己決定理論に基づく内発的動機の促進は、行動の持続性やパフォーマンス向上、幸福感の増加に寄与することが多くの研究で示されています。この理論では、人間が自己の可能性を最大限に発揮するために必要な欲求を満たし、その人らしい動機づけを促進することが、長期的な成功や満足感につながると考えられています。組織やプロジェクトが最大限のパフォーマンスを発揮するために、特に経営層やプロジェクトマネージャーは、3つの基本的欲求を満たす、内発的な動機づけを行うコミュニケーションが極めて大事です。