- ステップ1.自己診断(DX推進指標の活用)
- ステップ2.DX戦略の策定
- ステップ3.DXのゴールの策定
と3つのステップをおススメします。
ステップ1
経済産業省の政策実行組織である独立行政法人情報処理推進機構(通称IPA)は、DX推進指標というデジタル化の推進に向けてのガイドラインを出しています。2019年から毎年実施しており、Excelのテンプレートで自己診断して提出することで、自社のデジタル化の状況を他社とベンチマーク比較してくれます。メリットは、全国の回答企業における自社の立ち位置が分かること、DX先行企業との比較ができること、業界内での位置づけが分かること、が上げられます。
2023年度は、全回答4,047社のうち約9割は中小企業で、そのうち従業員20名以下の企業2,002社もこの指標を活用しています。ものづくり補助金などの審査の加点にも使われているので活用が増えているようですが、デジタル化・DX戦略を立案するために必要な要素が盛り込まれているので、若干難しいところもありますが果敢にトライして、自社のデジタル化の状況を把握しましょう!
ステップ2
続いて、DX推進指標を活用して、自社のDX戦略を立案してみましょう。
「DX推進指標」の使い方
DX推進に関する
①経営のあり方、仕組み
②基盤となるITシステムの構築
の2段構成になっています(下図参照)
①では、ビジョン、経営トップの意思、体制、評価体系、予算、DX人材育成、事業への活用方法などを定性的・定量的に自己評価します。
②では、IT活用方針(データ活用方法など)、現行資産状況、投資分野の決定、IT構築推進体制などIT構築に向けて定性的・定量的に自己評価します。
DX推進指標の自己診断を行うことにより、DX推進に必要な項目を整理できます。

出所:「DX推進指標」とそのガイダンス」(独立行政法人情報処理推進機構)
お気づきかと思いますが、①は経営戦略そのものです。データとデジタル技術を活用して、というところが加わる形になります。そこで、経営戦略を策定するために、最低ラインとして取り組んでいただきたいことが2点あります。
1点目は、”クロスSWOT分析”です。DXの最終目的は「競争優位性を確立する」ことでした。よって、「強み×機会」の掛け合わせが最重要になります。一度、自社の強み・弱み・機会・脅威を再整理してみましょう。下記のフォーマットを使って、書き出してみることをお勧めします。

2点目は、”課題ツリー”の作成です。一般的には、ロジックツリー・問題解決ツリーなどとも言われますが、左に大目的を設定し、そこから右へ「目的-手段」の関係でツリー構造で表し、全社的な課題を見える化・共有化することで、目指すべき方向性を全社員で共有できる便利なツールです。私が経営支援する時は、いつもはじめに課題ツリーの作成ワークショップを行います。模造紙に付箋紙で課題を書き出してもらい、領域ごとに再整理して、目的-手段の関係になっているかを右から左から検証して、整合性を取ります。最後に、マインドマップやExcelでツリーを清書して完成させます。これをA3用紙などに印刷して壁に貼って常に振り返れるようにしておくとよいでしょう。社員の皆さんに課題を出し合っていただくので、ご自身たちで作られたものはより自分ごととして取り組みやすくなります。

ステップ3
そして、現状をある程度見える化出来たら、DX戦略のゴールを策定します。経営支援では、バランススコアカードの戦略マップを活用しています。
バランススコアカードとは、企業が戦略を実行する際、財務指標のみならず、非財務指標を含めてバランスよく、組織のビジョンと戦略を包括的に評価・管理するための枠組みです。バランススコアカードは、以下の4つの視点を基軸に戦略目標を設定し、その達成状況を測定する重点管理指標(KPI:Key Performance Indicator)を設けます。
財務の視点 | 株主や経営陣、金融機関に対する成果を示すため財務目標を設定 |
顧客の視点 | ターゲット顧客層の満足度や期待を達成するための目標を設定 |
業務プロセスの視点 | 各目標を達成するために必要な内部業務プロセスの生産性や品質を向上させる視点で目標を設定 |
学習と成長の視点 | 長期的な成長と持続可能性を実現するための従業員の能力開発や組織文化の強化に焦点を当てて目標を設定 |
本来は下図にあるCSFやKPIなども詳細設定しますが、分かりやすく全社に見える化するために「戦略マップ」という形で、課題ツリーで出てきた要素を入れてマップを作ります。是非、こちらのフォーマットを真似して戦略マップの作成に取り組んでください。
戦略マップ(例)

バランススコアカード(例)
視点 | CSF (重要成功要因) | KPI (重要業績評価指標) | Action(具体的な行動) |
財務 | 売上の増加 | 売上高(年間/四半期別) | 新製品の開発 販売促進キャンペーンの実施 |
財務 | コスト削減 | 販売管理費削減率(%) | 固定費の削減計画策定 原材料の一括調達 |
財務 | 利益率の向上 | 営業利益率(%) | 高付加価値商品の販売強化 無駄なコストの見直し |
財務 | キャッシュフローの改善 | 営業キャッシュフロー(億円) | 売掛金の回収期間短縮 資金繰り管理の徹底 |
顧客 | 顧客満足度の向上 | 顧客満足度スコア(NPS、%) | 顧客アンケートの定期実施 問い合わせ対応プロセス改善 |
顧客 | 新規顧客獲得数の増加 | 新規顧客数(人/月) | 広告出稿の拡大 SNSでのマーケティング強化 |
顧客 | ブランド認知度の向上 | 認知度調査スコア(点数) | PRイベントの開催 ブランドストーリーの発信 |
顧客 | 問い合わせ対応の迅速化 | 平均応答時間(分) | チャットボットの導入 FAQページの充実 |
業務プロセス | プロセス効率化 | サイクルタイム短縮率(%) | 業務手順の標準化 生産プロセスの自動化 |
業務プロセス | 品質の向上 | 不良品率(%) | 品質管理システムの導入 定期的な検査プロセス実施 |
業務プロセス | 在庫管理の最適化 | 在庫回転率(回/年) | 在庫管理システム導入 需要予測の精度向上 |
業務プロセス | サプライチェーンの最適化 | リードタイム(発注から納品までの日数) | サプライヤーとの連携強化 在庫配置の最適化 |
学習と成長 | 従業員スキルの向上 | スキル認定率(%) | 定期的なスキル研修の実施 外部セミナーへの参加促進 |
学習と成長 | 社内コミュニケーションの改善 | 社内アンケートでの満足度スコア(点数) | コミュニケーションツールの導入 チームビルディング活動 |
学習と成長 | 組織のエンゲージメント向上 | 離職率の低下(%) | 従業員満足度調査の実施 キャリアパスの明確化 |
学習と成長 | 人材の多様性の推進 | 女性管理職比率(%) | 女性リーダー育成プログラム 公平な採用プロセス導入 |
学習と成長 | デジタルスキルの強化 | DX関連研修受講率(%) | DX研修プログラム開発 eラーニングシステムの導入 |
もう一つ。DXに特化した「実現ロードマップ」という観点では、デジタル化4段階に即して、経産省のDXレポート2にある下記の表を活用して段階的な実現イメージを図式化してもよいでしょう。参考にしてみてください。

出所:「DXレポート2」 (経済産業省・2020年12月)
以上に示した3ステップにより、わが社のDX戦略を作ってみて、毎年継続的に取り組むことで、最終形態であるデジタルトランスフォーメーションの実現に近づくと思います。ちなみに、2020年にDX銘柄のグランプリを取られたトラスコ中山様は、DX推進ステップをトラスコプラットフォームへの工程表という形で、DX1.0(プラットフォームの基盤固め)、DX2.0(外部との連携含めたサプライチェーン全体でのプラットフォームの実現)という形で分けられて、着実に推進され、DX銘柄の常連になられています。DXの実現には時間がかかります。まずはDX推進ビジョンを作ってみるところからスタートしましょう。