日本の中堅・中小企業が直面する生産性の低さや成長の限界を克服するために、組織の自律化を促す改革プロジェクトの重要性が増しています。日本企業の生産性が低い原因には、長時間労働、年功序列、デジタル化の遅れ、イノベーションの低迷、規制の硬直性、そして労働力人口の減少などが挙げられます。こうした課題を解決するため、企業が自律型組織に変わり、全社員が能動的に改革に取り組むことが必要です。この「自律型組織」とは、経営者が正しい道を示し、管理職がその意思を組織に伝達し、現場担当者が協力し合うことで企業が一体となる組織形態を指します。この組織の実現は、改革プロジェクトの成功を大きく左右する要因です。そして、実現できれば本当に強い企業に変わっていくと感じています。実際のところ、自身の経験ではこのような企業には、あまり見たことはありませんが、そうなりたいと強く願い、危機感を持ち、経営・現場管理職層・部門全体で取り組みを進めている企業はいらっしゃいました。そうした企業を少しでも増やしていくお手伝いをしていきたいと思います。
一般的に、ITに限らずプロジェクトの成功率は低く、30%程度と言われていますが、これは目的の合意不足や進捗管理の不徹底、コミュニケーションエラー、管理システムの不備などが原因です。こうした失敗要因に対処するために、改革プロジェクトは準備検討、構想策定、実行、定着という4つのフェーズに分け、それぞれの段階で組織全体が同じ目標に向かって進むための施策が必要です。たとえば準備段階では、経営層が強い意志をもって「変革の意図」を社内に共有し、目標設定を行うことで、改革の目的を全社で合意し、一貫した意思を持って取り組む姿勢を整えることが求められます。
また、中小企業においては限られた経営資源のなかで、日常業務に追われることが多く、改革の継続的な取り組みが後回しにされがちです。こうした背景からも、「仕組み化」の重要性が増しています。営業力の向上、商品差別化、競争力強化を図るためには、改善の取り組みを単発ではなく「仕組み」として継続し、改善した状態を維持する仕組みが重要です。中小企業は経営資源が限られているからこそ、こうした仕組み化によって変化を持続させ、組織力の底上げが求められます。組織運営の効率化や知識の見える化、体系化、KPIや目標管理システムの整備、ワークフローの標準化、人事管理、リスク管理など、すべてが企業の持続的成長に繋がります。
改革プロジェクトでは「SECIモデル」を参考に、各個人の持つ「暗黙知」を組織全体で共有する「形式知」に変換し、組織全体で知識を蓄積し、成長の基盤を築くことを目指します。「SECIモデル」は、日本企業が持つ競争力の源泉とされ、暗黙知と形式知が相互作用し、知識が創造されることを前提にしています。この知識の共有と循環が組織全体の標準化や属人化防止を可能にし、効率的な業務運営と生産性向上に繋がります。また、組織の管理プロセスとしてはPMBOKに基づき、プロジェクトのWBS(作業分解構造図)を作成することも有効です。WBSによりプロジェクトの目的達成に必要な作業が可視化され、各チームが次に何をすべきかを明確に理解することで、進捗管理がしやすくなります。これにより、組織全体が一体となって目的に向かうことが可能です。
改革プロジェクトの成功には、経営層の積極的な関与が不可欠です。特に改革初期段階における目的合意と進捗管理が重要であり、全社で「ノーススター(北極星)」と呼ばれるような共通目標を持つことが鍵となります。この目標はすべての社員に「腹落ち」させる必要があり、経営層の一方的な押し付けではなく、プロジェクトメンバーと経営層が協力しながら練り上げる必要があります。このように明確な目標設定が行われていれば、プロジェクトは単なる業務改善にとどまらず、中長期的な視点で企業全体を変える改革へと発展します。

また、自己決定理論に基づく「内発的動機」を引き出すことも、プロジェクトを成功に導くポイントです。特に「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的欲求が満たされると、メンバーは自ら進んで改革に参加するようになります。組織の自律化を実現するためには、経営層からの一方的な指示ではなく、現場担当者が自発的に行動しやすい環境が整っていることが求められます。このため、経営層やプロジェクトマネージャーは丁寧なコミュニケーションを通じてメンバーの意欲を引き出し、信頼関係を築くことが重要です。
実際のプロジェクトでは、PMBOKのガイドラインを活用し、プロジェクトの進捗管理とリスク管理を体系的に行います。PMBOK第7版では、柔軟な対応が重視されており、ウォーターフォール型からアジャイル型まで幅広いプロジェクトに対応できるため、特に中小企業の改革プロジェクトにおいて有効です。さらに、WBSとガントチャートを併用することで、タスクの可視化とスケジュール管理が強化され、改革プロジェクトの円滑な実施が支援されます。これにより、プロジェクトチームが一丸となり、持続的なプロジェクト遂行を図ることができます。
このように、自律型組織の確立に向けた改革プロジェクトは、単なる業務改善にとどまらず、企業文化や組織体質を抜本的に変える取り組みです。最初に掲げた目標に向かって全社員が一体となり、共通のゴールに向けて動くことで、組織全体の成長が期待できます。自律型組織の強みは、現場の意見を反映しながら柔軟に変化できる点にあり、これが将来的な競争力の源泉となります。
繰り返しますが、最重要なプロジェクト成功の秘訣は「目的の設定と合意」「丁寧なコミュニケーションによる動機づけ」「きめ細かい進捗管理」です。なかなか、これが完璧に実行できるプロジェクトは多くありません。要所で、抜け漏れが生じます。プロジェクト支援者は、しっかり伴走してその遂行をサポートする経験とスキルが求められますね。私もしっかり意識してお客様の支援に臨みたいと思います。
