第5回:IT導入とデジタル技術活用による労働生産性向上のススメ|中小企業の業務効率化とDX

この記事は約9分で読めます。

IT導入で何が変わるでしょうか。業務効率化によって仕事の生産性を高め、結果として付加価値を向上させるために、IT/デジタル技術の活用は有効かつ不可欠な手段です。

労働人口の減少、賃金上昇、国際競争力の低下といった社会課題の中で、日本企業にとって「労働生産性の向上」は避けられないテーマですが、生産性の向上とは、限られた労働時間でより大きな付加価値を生み出すことを意味します。

従来から「IT活用で効率化を」という声は聞かれてきましたが、近年は実際に成果が数字に現れてきています。たとえば、経済産業省の「2023年版情報通信白書」によれば、ソフトウェア投資が活発な企業はそうでない企業に比べて労働生産性が高い傾向にあるとされています。また、OECDの統計でも、IT投資と労働生産性は強い相関関係を示しており、特に中小企業において効果が大きいことが指摘されています。

本稿では、労働生産性を上げるためのIT/デジタル技術の活用について、解説していきます。


1. 労働生産性を上げるためのIT/デジタル技術活用の目的を整理する

IT活用の最終的なゴールは「付加価値の向上」です。そのためには、以下の3つの目的が存在します。

1.業務効率化・省力化

 ・手作業や二重入力を削減し、事務作業を短縮

 ・業務フローを標準化し、属人性を排除

2.意思決定の高度化

 ・経営データをリアルタイムで把握し迅速に判断

 ・シミュレーションや予測分析により戦略的な施策を打てる

3.顧客価値の向上

 ・顧客ニーズに応じたスピーディーな対応

 ・データに基づくパーソナライズや新サービスの提供

 ・顧客体験(CX)の改善による満足度・ロイヤルティ向上

つまり、IT/デジタル技術を活用して業務効率化や意思決定の高度化、顧客価値向上などに取組み、結果として付加価値が向上するという流れが、IT活用の本質的な目的です。


2. 労働生産性を上げるITツールと活用戦略

次に、具体的な手段を「概要」とともに整理しました。実に多くの手段があります。

手段概要
生成AI・チャットボット問い合わせ対応や文書作成、提案資料のドラフト生成を効率化。AI議事録も時間短縮に有益。知的労働の生産性を高める。
RPA(Robotic Process Automation)定型的な事務作業を自動化。人手が不要となり、業務時間を大幅に削減。
クラウドサービス(SaaS)会計、販売管理、勤怠などをクラウドで利用。低コストでスピーディに導入可能。
BI・データ分析ツール売上・利益・生産性をリアルタイムで可視化し、迅速な意思決定を支援。
ERP(統合基幹業務システム)分断されたシステムを統合し、業務効率・データ一貫性を確保。
CRM(顧客関係管理システム)顧客データを一元管理し、営業活動やカスタマーサポートを高度化。
SFA(営業支援システム)営業進捗を可視化し、営業活動の効率化・成功確率を向上。
IoT・センサー活用製造現場や物流の稼働状況を自動取得し、稼働率改善や故障予知に活用。
モバイル端末活用外出先から情報入力や顧客対応を可能にし、業務の即時性を高める。
グループウェア・コラボレーションツールTeams、Slack、Google Workspaceなどで情報共有・会議効率を改善。
電子契約・ワークフロー契約や承認手続きを電子化し、時間短縮とリードタイム削減を実現。
EC・デジタルマーケティングツール顧客接点を拡大し、オンラインでの販売・集客を強化。

特に近年は、生成AI・クラウド・データ活用の3点セットが中小企業の生産性向上において強力な武器となっています。


3. 労働生産性向上のためのデジタル化とIT活用事例

事例1:製造業の工程管理システム導入

紙ベース管理からクラウド型工程管理に切り替え、進捗をリアルタイムで可視化。仕掛かり在庫を削減し、生産リードタイムを短縮。労働生産性は約20%改善。

事例2:サービス業でのRPA活用

派遣会社が勤怠データ集計をRPAで自動化。月間100時間超を削減し、スタッフ対応や営業活動に人員をシフト。

事例3:小売業でのBIツール導入

複数店舗の売上をリアルタイム分析し、在庫の適正化と粗利改善を実現。売上高付加価値率が上昇。

事例4:コンサルティング業での生成AI活用

提案資料ドラフトをAIで作成。リサーチや文章構成の時間を削減し、顧客議論に集中。

ちなみに、IT/デジタル化関連の事例については、経済産業省の産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)サイトに優良事例が多数掲載されていますので、ぜひチェックしてみて下さい。DXセレクションが中堅・中小企業事例、DX銘柄が上場企業事例になっています。


4. デジタル化とIT導入による労働生産性向上の効果

定量効果

  • 業務時間削減(残業削減・人件費抑制)
  • 在庫削減や歩留まり改善による原価低減
  • リードタイム短縮による売上増加

定性効果

  • 従業員のモチベーション向上(単純作業からの解放)
  • 顧客満足度の向上(レスポンス迅速化・品質向上)
  • 経営判断のスピードアップ(データに基づく意思決定)

5. 労働生産性向上のためのデジタル化とIT導入のポイント

  1. 目的の明確化
    導入理由を曖昧にすると成果が測れない。しっかり「何のために」導入するか目的を定める。
  2. 現場の見える化を先行
    業務フローのムダを整理せずに導入すると、非効率を固定化する。
  3. 段階的導入
    小規模な段階導入で効果確認しながら、順次拡張していくことが望ましい。
  4. 人材育成と定着化
    マニュアル化により形式知にすること、定期的なITリテラシー教育、丁寧な伴走支援が活用を定着させるには不可欠。
  5. 効果のモニタリング
    効果測定の仕組みを必ず用意する。モニタリングについてはIT/デジタル技術活用の肝なので、もう少し詳しくその方法を解説します。

5. 効果モニタリングの具体的方法(詳細)

効果を「導入して終わり」にせず、継続的にモニタリングすることが重要です。具体的には以下の方法があります。

KPI設定

  • 例:処理時間短縮率、残業時間削減率、売上高付加価値率、顧客満足度(NPS)
    • 定量的指標と定性的指標をセットで設定する

見える化(ダッシュボード活用)

  • BIツールを用いてリアルタイムに進捗を可視化
    • 経営層だけでなく現場も確認できる形にする

定期レビュー会議

  • 月次・四半期ごとに導入効果を評価
    • 数字が出ていない場合は原因を特定し改善策を検討
    • レビュー会議は若手や次世代リーダー育成の場でもある

費用対効果分析(ROI/ROTI)

  • IT投資額に対し、削減時間・人件費・売上増加を金額換算
    • ROI(投資収益率)だけでなく、ROTI(投資時間の回収率)で測ると現場に浸透しやすい

このような流れで「見える化」→「数値化」→「改善サイクル」を回すことが、生産性向上を持続させる鍵となります。実際のご支援では、下記のようなバランススコアカード戦略マップを活用した整理を実施しています。マップでわかりやすく可視化しつつ、詳細は戦略目標(最終ゴール)、成功要因(定性・定量)、評価指標(定量)、実際のアクションプランを一覧で整理します。

BSC戦略マップバランススコアカード

こうした整理を自社だけでやるのは簡単ではありません。ご支援が必要な場合は、ぜひ善コンサルティングオフィスまでお問合せください。


6. IT導入補助金2025の活用

中小企業は、IT導入補助金を活用して、効率よくIT導入を行いましょう。

制度の目的と特長

  • 労働生産性向上のための支援:
    中小企業・小規模事業者を対象に、ITツール(ソフトウェアやサービス等)の導入を支援する補助金制度です
  • 導入から活用までを支援:
    2025年度からは、ツール導入後の“活用支援”費用も補助対象に含まれるようになり、定着化をサポートする姿勢が強化されています。
  • 最低賃金に近い事業者への優遇:
    地域別最低賃金+50円以内の従業員が全従業員の30%以上を占める事業者に対して、補助率が上乗せされる措置も導入されています。

制度のメリット・注意点

メリット

  • 補助率・補助額が高く、負担を大幅に軽減— 小規模事業者は最大4/5補助も可能
  • 低リスクでのIT導入が可能 — 導入費用を国が一部負担してくれるため、資本的負担を抑えてDX推進が可能です
  • 複数回申請や少額でも利用可能 — 弾力的に活用しやすい設計になっています

注意点

  • 対象ITツールは登録制 — 補助対象となるITツールや事業者は、事務局の審査に通らないと利用できません
  • 申請には専門業者との連携が必須 — 基本的に「IT導入支援事業者」と一緒に申請手続きする必要があります
  • 申請〜報告までの手続きが必要 — GビズIDの取得やSecurity Actionの宣言、事業実績報告も含めた計画的な対応が必要です

枠ごとの概要

枠名主な対象補助率(中小/小規模)補助額上限特筆ポイント
通常枠業務デジタル化1/2(最低賃金近傍:2/3)1〜3プロセス:~150万円
4以上:~450万円
業務プロセスで区分
インボイス対応類型会計・受発注・決済など3/4(小規模:4/5)~2/31機能:~50万 2機能以上:~350万ハード含む
インボイス電子取引類型受発注システム(無償提供)中小等:2/3、その他:1/2~350万円他社を巻き込んだ連携型
セキュリティ対策推進枠セキュリティツール1/2(最低賃金近傍:2/3)5万~150万円インシデントリスク対応支援
複数社連携IT導入枠地域や商店街単位2/3(分析経費・事務費も)最大3,000万円(全体)地域DXや分析支援を含む大規模導入が可能

補助金制度の公募要領等は随時更新されることがありますので、最新の情報は中小企業庁のサイトをご確認ください。概要はこちらのリンクから確認できます。
サービス等生産性向上IT導入支援事業 『IT導入補助金2025』の概要


7. 労働生産性を上げるためのデジタル化とIT導入のまとめ

労働生産性向上のためのIT/デジタル活用は、すでに各種統計でも裏付けられています。

  • 最終ゴールは付加価値の向上
  • 目的は「業務効率化」「顧客価値向上」「意思決定の高度化」
  • 手段はAI・RPA・クラウド・BI・ERP・CRMなど多岐にわたる
  • 事例では20%以上の生産性向上が報告されている
  • 効果を出すには目的設定・見える化・人材育成・モニタリングが必須

ITは単なるコスト削減ではなく、未来の付加価値を創出する戦略投資です。経営者と現場が同じ方向を向き、継続的に改善を重ねることで、確実に成果を出すことができます。

労働人口が減少する日本において、最も有効かつ身近な経営施策のひとつが「IT・デジタル技術の戦略的活用」であることは間違いありません。

善さん
善さん

労働生産性につながるデジタル化とITの活用は、中小企業でも認知され、取組が進んでいます。2025年版中小企業白書によると“何らかのデジタル化に取り組んでいる中小企業”は2023年の69.2%から、2024年は87.5%と大きく伸びています。生成AIの活用も進んでおり、生産性向上にとても有効ですよ!

善コンサルティングオフィスでは、効果検証がしっかり測れる形でデジタル化・IT活用を行う支援を行っております。効果的な活用で、労働生産性を上げるための施策立案をわかりやすくまとめたい方は、ぜひ一度ご相談ください。