第3回:ロジックツリーで課題を整理する方法と、現場での使い方

はじめに

業務の見える化から「課題の見える化」へ

前回の記事では、業務を可視化することの重要性と、その具体的な手法について解説しました。業務の流れを把握し、ボトルネックやムダを明らかにすることで、改善の第一歩を踏み出せるようになります。

しかし、業務を見える化しただけでは、効果的な改善に至らないこともよくあります。なぜなら、課題の抽出が表面的なものにとどまってしまい、本質的な原因や上位の目的が見えにくいからです。そこで今回は、業務の見える化に続く次のステップとして、「課題の構造化と本質の抽出」に役立つフレームワーク―ロジックツリーをご紹介します。筆者が習得しているVE(バリューエンジニアリング)の考え方を活かした「機能系統図」をベースに、現場で使いやすく簡略化した手法を実例とともに解説します。支援先では、課題ツリーという表現にしたワークショップをよく開催しています。

1. ロジックツリーとは何か

ロジックツリーとは、課題を「なぜ?(Why型)」または「どうやって?(How型)」といった視点で分解し、階層的に整理する図解手法です。問題の構造をツリー(木)のように見える化することで、課題の本質や解決策が整理され、チーム内の共通理解が進みます。

① ロジックツリーの種類

  • Whyツリー(原因分析型):「なぜ売上が伸びないのか?」など、問題の原因を深掘り
  • Howツリー(手段分解型):「どうやって営業力を高めるか?」など、目的達成の手段を整理

この手法は、コンサルティングや業務改善の現場だけでなく、企画立案や目標管理の場面でも有効です。

2. VEの機能系統図とは何か

VE(Value Engineering:価値工学)は、「製品やサービスに必要な機能を、最小限のコストで達成し、価値向上を図ること」を目的とした分析手法です。製品開発や業務設計の場面で、機能価値を最大化するために活用されてきました。近年では、その考え方を経営にも活かす取り組みがさかんに行われています。ちなみに、ここで言う「機能」とは、対象とする製品やサービスが持つ「目的・働き・役割」のことで、物理的なファンクションとは異なるVE的な考え方になります。

VEの中で中心的な役割を果たすのが「機能系統図」です。これは、最上位の目的を起点として、その目的を達成するために必要な機能や手段を階層的に分解し、全体像を構造的に整理する図です。たとえば、芝刈り機を例にすると、最上位の目的が「芝を刈ること」であり、その下に「刃を回転させる」「モーターを動かす」「電力を供給する」といった手段が続きます。さらにそれぞれの手段を細かく分解していくと、「スイッチで操作する」「安全装置を働かせる」「電源コードを接続する」といった詳細機能にまで落とし込まれます。このように、目的から手段を順にたどることで、「なぜこの機能が必要なのか」「どの機能がコストに見合う価値を持っているのか」を客観的に分析できるのが、機能系統図の強みです。

筆者自身も、製造業のVE研修や業務プロセス改革の支援の中で、この機能系統図を活用してきました。業務全体の目的を再確認しながら、不要な工程や重複した機能を見直すことで、シンプルかつ効果的な改善案を導き出すことが可能になります。機能系統図は元々モノづくりにおける分析手法ですが、その「目的から手段へ」という思考は、業務や組織課題を整理する際にも非常に有効です。

3. VEの機能系統図とロジックツリーの関係

VE(バリューエンジニアリング)における機能系統図は、「目的-手段」の関係を整理し、製品や業務の機能価値を見極めるための図解ツールです。

①共通点

  • いずれも階層構造を持ち、上位→下位の関係を視覚化
  • 最上位の目的を起点に、構成要素(手段・要因)をブレイクダウンする

②相違点

項目機能系統図ロジックツリー
目的機能の分解と価値分析問題・課題の構造化
用語目的・手段Why/How・課題・要因
使用場面VE手法、製造・開発業務改善、企画、戦略立案

筆者はVEの機能系統図の考え方(特に、目的・手段の関係)を意識しながら、よりシンプルで実務向けにしたロジックツリーの活用を支援現場で行っています。

4. ロジックツリーの作り方とポイント

ロジックツリーを効果的に活用するためには、いくつかの基本ルールがあります。

①作成ステップ

  1. 最上位の目的や問題を設定
    • 例:「営業生産性を上げたい」「クレームを減らしたい」
  2. 目的に対する手段や原因を分解
    • 目的に対する手段があり、手段がまた目的となり、その下位に手段がある
    • 下位から上位(何のために)
    • 上位から下位(どうやって)
  3. 階層構造で整理
    • 原則、3~5階層が目安。深掘りしすぎると実行性が下がる
  4. 論理をチェック
    • 両面から、矛盾がないように往復しながらツリーを作り上げていく

②記載のコツ

  • 動詞+名詞で簡潔に(例:商談件数を増やす、提案資料を改善する)
  • 抽象と具体のバランスを意識(下位に行くほど具体になる)
  • 実行可能性のあるレベルまで落とし込む

③ワークショップを行う時のルール

  • 出来るだけ多くのアイデアを出すために下記3点を守る
  • 自由奔放、批判厳禁、相乗りOKとする
    支援先で口癖のようにこの3つの呪文を唱えていると、場の雰囲気が柔らかくなり、自由闊達な意見が生まれてきますので、やってみてください!

4. 支援事例:現場でのロジックツリー活用

ある中堅製造業

「受注から出荷までのリードタイムが長い」という課題がありました。現場ヒアリングと業務フロー可視化の後、課題ツリーワークショップを実施しました。

①ワークショップの進め方

  • 各部署から担当者を集め、共通の目的を設定(例:リードタイム短縮)
  • ロジックツリー形式で現状の課題を目的-手段の関係で出し合う
  • 課題の深掘りと分類を通じて、真のボトルネックを抽出

②得られた効果

  • 部門間での認識のズレが明確化
  • 対症療法的な改善から、根本的な業務改革への意識転換
  • 自発的な改善提案の創出

ある福祉関連企業

経営課題の抽出に活用しました。

「5年先を見据えて、いま、何に取り組まなければならないか」をテーマに課題ツリーワークショップを実施しました。

①得られた効果

実施する前は、売上とコストがフォーカスされていましたが、顧客と従業員の観点で目的が抽出され、「顧客満足度」と「従業員満足度」で、「売上」と「コスト」を挟み撃ちするツリーが出来上がりました。先日、ちょうど1年経ってツリーを振り返りましたが、実施できたこと、課題としてまだ残っていることが明示され、さらなる経営改革に取り組んでいるところです。

5. マインドマップツール(XMind)の活用

ワークショップを行う時は、ロジックツリーを紙とふせんで作成しています。まとめの段階では、筆者はXMindというマインドマップツールを活用しています。マインドマップツールは、少し検索してもたくさん出てきますので、ご自身で使いやすいものを選んでみてください。

①XMindのメリット

  • 無料である程度使える(基本機能で十分)
  • ロジックツリーのテンプレートがあり簡単に作成可能
  • 階層構造の整理や色分けで視認性が高い
  • 作成後のPDF化や画像出力も簡単

②活用のポイント

ワークショップ後の成果物をそのまま関係者に共有可能

6. まとめ:ロジックツリーで経営課題を構造的にとらえる

ロジックツリーは、単なる問題解決ツールではありません。課題を構造的にとらえることで、経営の目的と現場の行動を結びつける「対話の媒介」として機能します。

「見える化した業務」を次のステップとして、「見える化された課題」に変える。そのプロセスにロジックツリーを活用することで、組織全体の認識を揃え、実行性ある改善につなげることが可能になります。次回は、整理された課題が「どの業務」「どの時間帯」「どの部門」で発生しているのか、といった視点で、時間の使い方にフォーカスしながら、労働生産性向上の鍵となる「時間の見える化」について解説していきます。

善コンサルティングオフィスでは、企業の改革・改善プロジェクトの実行支援をお手伝いしています。仕組み化・定着化まで、社員のように、一緒に作り上げていく取組みを行っています。