― 労働生産性・DX・人材を一本でつなぐ「価値づくり」の考え方
限られた資源で最大価値を生む『VE思考』を活用して、生産性向上を図ります。経営者が「何を価値とし、何を選び、何を手放すか」を決め続ける意思決定プロセスそのものが労働生産性向上につながります。
※本記事は、労働生産性をテーマにした全10回シリーズの最終回(第10回)です。
これまで、業務の見える化・改善・DX・人材育成と段階的に整理してきました。本記事では、それらを「経営判断」という視点から一本につなぎ直します。初めてお読みの方も、この回から理解できる構成になっています。
なぜ、改善しても成果が出ないのか
業務改善、人材育成、DX。
どれも重要だと分かっていて、実際に取り組んでいる。
それでも──思ったように成果が出ない。
多くの中小企業経営者が、同じ壁にぶつかっています。
- 改善テーマが次々に出てきて、優先順位がつけられない
- 人材育成に力を入れているが、現場が自律的に回らない
- DXを導入したが、「で、何が良くなったのか」が説明できない
これらは一見、別々の問題に見えます。
しかし、実はすべて 同じ原因 から生じています。
それは
経営としての「判断の軸」が明確になっていないことです。
これまでの9回で、何を積み上げてきたのか
本ブログでは、これまで9回にわたり
「労働生産性をどう高めるか」をテーマに議論を重ねてきました。
扱ってきた内容は多岐にわたりますが、
流れを一本にまとめると、次のようになります。
- 見えないものは、判断できない
- 判断しなければ、改善は進まない
- 改善しても、仕組みがなければ続かない
- 仕組みがあっても、人が動かなければ意味がない
つまり、ここまででたどり着いた結論はこうです。
労働生産性とは、
経営が「何を見て、何を判断し、何を仕組みにし、
誰にどう任せるか」という意思決定の結果である
この視点に立つと、
改善・DX・人材はバラバラの施策ではなく、
一つの“価値づくりのストーリー”として捉える必要がある
ことが見えてきます。
労働生産性向上のカギは、DXと人材育成を繋ぐ「価値のストーリー」にあり
ここで、改めて問いを立ててみましょう。
- この改善は、どんな価値を生み出すのか
- このDXは、どの業務の何を変えたいのか
- この人材育成は、将来どんな役割を担うためのものか
もしこれらに即答できないとしたら、
問題は「現場」ではなく「経営の整理不足」にあります。
経営者に求められるのは、個々の施策を評価することではありません。
それらを一本につないだ「価値のストーリー」を描くことです。
- どの価値を高めたいのか
- そのために、どの機能が重要なのか
- 限られた資源を、どこに集中させるのか
このストーリーが描けていないままでは、
現場は「頑張る方向」を見失い、改善もDXも、やがて形骸化してしまいます。
ここで登場するのが、こうした 価値づくりのストーリーを構造的に整理する考え方 です。それが、VE(Value Engineering)です。
VEというと「コスト削減手法」という印象を持たれがちですが、本来はまったく異なります。
VEとは、
価値について、顧客の要求する機能(目的)を、限られた資源でどう実現するか、という視点で整理する方法です。価値=機能/コストの関係で表します。
つまり、
- 労働生産性
- 人材
- DX
これらを バラバラに考えず、一つの価値づくりとして判断するための共通言語 です。
第10回では、この考え方を軸に、中小企業経営者が“何をどう判断すべきか”を整理していきます。
中小企業の生産性向上が失敗する3つの原因
― 現場に「正解探し」をさせていないか
労働生産性を高めようとすると、多くの企業で次のような動きが起こります。
- 現場から改善テーマを募る
- ITツールやDX施策を検討する
- 研修や人材育成に投資する
一見すると、どれも正しい取り組みです。しかし、それでも成果が出ないケースが後を絶ちません。なぜでしょうか。理由は単純です。
現場に「判断」まで委ねてしまっているからです。
現場は「実行する場」であって「判断する場」ではない
現場に任せすぎると、次のような状態に陥ります。
- 改善テーマがバラバラに出てくる
- それぞれはもっともらしいが、全体としてつながらない
- 結果として、どれも中途半端に終わる
現場は「よくする方法」を考えることはできます。しかし、
- どの改善を優先すべきか
- どこに人や時間を集中させるべきか
- どこは割り切ってやらないのか
といった判断は、本来経営者の役割です。
労働生産性が上がらない企業では、この役割分担が曖昧になっていることが少なくありません。
「全部やろう」とするほど、労働生産性は下がる
中小企業は、経営資源が限られています。
- 人も時間も潤沢ではない
- それでも、目の前の課題は次々に現れる
この状況で、「どれも大事だから、全部やろう」という判断をすると、どうなるでしょうか。
結果として、
- 人材は分散し
- 現場は疲弊し
- 労働時間だけが増え
- 労働生産性はむしろ下がる
という悪循環に陥ります。
労働生産性向上とは、頑張る量を増やすことではなく“何に集中するか”を決めることなのです。
問題は「施策」ではなく「判断の基準」
ここで重要なのは、個々の施策の良し悪しではありません。
- 改善活動が悪いわけではない
- DXが無意味なわけでもない
- 人材育成が不要なわけでもない
問題は、それらを評価・選択する基準がないことです。
- なぜこの改善をやるのか
- なぜこのDXに投資するのか
- なぜこの人材を育てるのか
この問いに対して、「価値」という軸で説明できなければ、労働生産性向上は場当たり対応になってしまいます。
労働生産性向上は「経営判断の問題」である
ここまで整理すると、労働生産性向上の本質が見えてきます。それは、
労働生産性は、現場改善の成果ではなく、経営者の判断の積み重ねによって決まる
ということです。
- どの価値を高めるのか
- そのために、どの機能を重視するのか
- 改善・DX・人材を、どう組み合わせるのか
これらを一貫した軸で判断できてはじめて、現場の取り組みは「意味のある努力」になります。
労働生産性を高める価値判断をどう整理するか
― 労働生産性・DX・人材を一本で考えるための考え方
前章では、労働生産性向上がうまくいかない理由として、「現場に判断を委ねてしまっていること」を指摘しました。では、経営者は
何を基準に判断すればよいのでしょうか。
ここで必要になるのが、施策を並べて比較するのではなく、価値の観点から全体を整理する考え方です。
「価値」とは何かを、経営者の言葉で整理する
まず確認したいのは、ここでいう「価値」は、抽象的な概念ではないという点です。経営における価値とは、突き詰めれば次の問いに集約されます。
- 顧客にとって、何が役に立っているのか(顧客価値)
- そのために、会社として何を提供しているのか
- それを実現するために、どこに人と時間を使っているのか
つまり価値とは、
「顧客にとって意味のある機能が、自社の経営資源を使って実現されている状態」
だと言えます。労働生産性を考えるうえでも、この「価値」が出発点になります。
労働生産性は「価値/投下労働量」で決まる
労働生産性は一般に「付加価値/労働時間」で表されます。
ここで重要なのは、分子(付加価値)と分母(労働時間)の両方を同時に見なければ意味がないということです。
- 労働時間だけを減らしても、価値が下がれば意味がない
- 価値を高めようとしても、労働時間が膨らめば続かない
だからこそ経営者には、
- どの価値を高めるのか
- その価値に直結しない仕事は何か
- 人材・DXはどこに使うべきか
を一つの軸で判断する力が求められます。
VEは「価値づくりのストーリー」を整理する考え方
この判断を助けるための考え方が、
VE(Value Engineering)です。VEというと、「コスト削減」や「原価低減」を連想されがちですが、本質はそこではありません。VEとは、
価値について、顧客の要求する機能(目的)を、限られた資源でどう実現するか、という視点で整理する方法です。
言い換えると、VEは経営者の頭の中にある「価値づくりのストーリー」を見える形にするための整理法だと言えます。
VEで考えると、施策は「選択」の問題になる
VEの視点に立つと、改善・人材・DXは次のように整理されます。
- 改善とは、価値に直結しないムダを減らすこと
- 人材とは、価値を生む機能を担う存在
- DXとは、価値を生む機能を効率よく実現する手段
重要なのは、「何をやるか」よりも「何をやらないか」です。
VEは、「全部やる」から「選んで集中する」ための思考の枠組みなのです。
VEは中小企業のための経営判断フレームである
経営資源が限られている中小企業にとって、
- 人材
- 時間
- 投資余力
はすべて貴重です。だからこそ、どの価値に集中するのか、どの機能は簡素化・外注・廃止するのかを決める判断が、労働生産性を大きく左右します。
VEは、この判断を感覚や経験だけに頼らず、論理的に整理するための共通言語として機能します。
VEで見ると、人材育成と労働生産性の関係はこう変わる
― 人は「頑張る資源」ではなく「価値を生む機能」である
前章では、VEを「価値づくりのストーリーを整理するための考え方」として整理しました。
この視点を人材に当てはめると、人材育成の捉え方は大きく変わります。
人材を「人数」や「スキル」で見ていないか
人材育成というと、多くの企業で次のような発想になりがちです。
- 人が足りない
- スキルが足りない
- 教育が追いついていない
もちろん、どれも間違いではありません。しかし、VEの視点から見ると、問いの立て方そのものがズレていることが分かります。VEでまず問うべきは、こちらです。
- この会社は、どんな価値を生みたいのか
- そのために、どんな機能が必要なのか
- その機能を、誰が担っているのか
人材とは、価値を生むための「機能の担い手」として捉えるべき存在なのです。
VEで整理すると、人材育成は「役割設計」になる
この視点に立つと、人材育成は「能力向上」ではなく、役割(機能)の設計と育成という意味を持ちます。たとえば、第9回で整理した
- 実行型人材
- 改善型人材
- 牽引型人材
は、VE的に言えば次のように整理できます。
- 実行型人材:安定して価値を再現する機能
- 改善型人材:価値を高めるためにムダを見つける機能
- 牽引型人材:価値づくりを組織として回す機能
重要なのは、どれが偉いかではなく、どれが不足しているかです。
労働生産性が伸びない組織では、「実行型」に負荷が集中し、「改善型」「牽引型」の機能が弱いケースが多く見られます。
「頑張っているのに成果が出ない」理由
人を大切にしたい、でも成果も出したい。この葛藤は、多くの経営者が抱えるものです。
現場からよく聞く声に、こんなものがあります。
「みんな一生懸命やっているのに、なぜ成果が出ないのか」
VEの視点で見ると、その理由は明確です。
- 頑張りが価値に直結する機能に集中していない
- 人材が役割ではなく“人”単位で配置されている
結果として、
- 労働時間は増える
- 現場は疲弊する
- 労働生産性は上がらない
という状態に陥ります。これは現場の問題ではなく、経営が人材をどう設計しているかの問題です。
VEは「育てる人」を決めるための道具でもある
もう一つ重要なのは、全員を同じように育てようとしないという判断です。
VEでは、
- どの機能が価値に直結するか
- その機能を担う人材は誰か
を明確にします。
その結果、
- 集中的に育てる人
- 標準化・仕組み化で支える人
が自然に分かれます。これは差別ではありません。
限られた経営資源を、価値に集中させるための判断です。
人材育成は「戦略」になっているか
ここで、改めて問いを立ててみてください。
- この人材育成は、どんな価値につながるのか
- 数年後、どの機能を強くしたいのか
- そのために、誰をどう育てるのか
これらに答えられないまま行われている育成は、どれだけ善意であっても、労働生産性向上には結びつきません。VEは、人材育成を「思いつき」や「平等主義」から救い出し、経営戦略として位置づけるための枠組みなのです。
失敗しないDX投資の判断基準はVEで労働生産性に直結する手段を選ぶ
― DXは「導入するもの」ではなく「価値を実現する手段」である
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、今や多くの中小企業にとって避けて通れないテーマとなりました。業務効率化、データ活用、人手不足対策。DXに期待される効果は数多くあります。しかし現場では、こんな声も少なくありません。
- ツールを入れたが、使われなくなった
- DXを進めたはずなのに、現場が忙しくなった
- 「で、労働生産性は上がったのか」と聞かれると答えに詰まる
これらは、DXそのものが悪いのではありません。DXをどう判断してきたかが問題なのです。
DXが「目的」になった瞬間、労働生産性は下がる
DXがうまくいかない企業に共通するのは、次のような状態です。
- 周囲がやっているから
- 補助金が使えるから
- 便利そうだから
このような理由でDXを始めると、DXはいつの間にか目的そのものになってしまいます。
しかし、VEの視点から見れば、DXはあくまで 価値を実現するための手段 です。
- どの価値を高めたいのか
- どの機能を強化したいのか
この問いに答えられないDXは、労働生産性向上にはつながりません。
VEでDXを捉えると、判断軸が明確になる
VEの考え方をDXに当てはめると、判断の順番は明確になります。
- どんな価値を高めたいのか
- そのために、どんな機能が重要なのか
- その機能を、DXで支援すべきか
つまり、「DXありき」ではなく「価値ありき」で考えるということです。
この順番が逆になると、
- 機能が過剰になる
- 現場の負担が増える
- 結果として労働時間が増える
という事態が起こります。
DX投資は「人の役割」を前提に判断する
もう一つ重要なのは、DXを 人材と切り離して考えない ことです。
- このDXで、人は何をしなくてよくなるのか
- 逆に、人にしかできない仕事は何か
- その役割を担う人材は育っているか
VEの視点では、DXとは「人の機能を置き換えるもの」ではなく、人が価値を発揮しやすくするための補助機能です。この整理ができていないと、
- DXで仕事が増える
- 人がシステムに振り回される
という、本末転倒な結果になります。
「やらないDX」を決めることも経営判断である
VEの特徴は、「やること」だけでなく「やらないこと」を決める点にあります。
DXについても同じです。
- 効果が限定的なDX
- 維持コストが重いDX
- 価値に直結しないDX
これらを見送る判断も、労働生産性を高めるためには重要です。
中小企業にとって、すべてをデジタル化する必要はありません。
価値に直結する部分に、DXを集中させる。
それがVE的なDX判断です。
DXは「価値づくりのストーリー」に組み込まれているか
ここまでの話を整理すると、DXが機能するかどうかは、次の一点に集約されます。
そのDXは、自社の「価値づくりのストーリー」の中に明確に位置づけられているか
この問いに「はい」と答えられるDXは、時間をかけてでも労働生産性向上に寄与します。
答えに詰まるDXは、いずれ現場の負担となり、形だけ残って使われなくなります。
第6章(最終章)|労働生産性は、経営者の意思決定の質で決まる
― 「何をやるか」より「何を価値とするか」を決める
ここまで、労働生産性をテーマに、
- 業務改善
- 人材
- DX
を、それぞれ単独の施策としてではなく、「価値づくりのストーリー」という一本の軸で整理してきました。その結果、はっきりしてきたことがあります。
労働生産性は、現場の努力量ではなく、経営者の意思決定の質によって決まる
という事実です。
労働生産性は「結果」であって「目的」ではない
労働生産性は、数値として測ることができます。
しかし、その数値を直接操作しようとしても、うまくいくことはほとんどありません。
なぜなら、労働生産性は、
- どんな価値を生み出そうとしているのか
- そのために、どこに人・時間・投資を集中させたのか
といった、日々の経営判断の積み重ねの結果として表れるものだからです。
言い換えれば、労働生産性とは経営の「通信簿」のようなものです。
経営者に求められる役割は、判断を「現場に任せない」こと
これまで見てきたように、
- 改善テーマの選定
- 人材育成の方向づけ
- DX投資の是非
これらは、すべて経営判断です。現場は、「決められた方向に向かって、どう実行するか」
を考える場です。一方で、
- どの価値を重視するのか
- どの機能に集中するのか
- 何をやらないと決めるのか
これらを決めるのは、
経営者の役割にほかなりません。
労働生産性が伸びない企業では、
この判断が曖昧なまま、
現場に「正解探し」をさせてしまっているケースが
多く見受けられます。
VEは、経営者の判断を支える「思考の補助線」
本記事で扱ってきたVE(Value Engineering)は、決して万能な解答集ではありません。
VEは、
- 何が価値なのか
- その価値を生む機能は何か
- 限られた資源をどこに使うのか
を、構造的に整理するための思考の補助線です。
改善・人材・DXといったテーマを、感覚や流行で判断するのではなく、
価値という共通言語で判断する。
そのための道具が、VEです。
「すべてを良くしよう」としない勇気
中小企業において、すべてを同時に良くすることはできません。
だからこそ重要なのは、
- どの価値に集中するのか
- どの機能は割り切るのか
- どの施策は今はやらないのか
を決めることです。これは冷たい判断ではありません。
会社と現場を守るための、現実的な経営判断です。
この判断があるからこそ、現場は迷わず動けるようになり、結果として労働生産性は高まっていきます。
最後に|経営者への問い
最後に、ぜひ次の問いをご自身に投げかけてみてください。
- 自社が本当に高めたい価値は何か
- その価値に直結する仕事は何か
- 人材・DX・改善は、その価値につながっているか
もし、これらの問いに言葉として整理しきれない部分があるなら、それは決して珍しいことではありません。多くの場合、
頭の中では分かっているが、構造として整理されていない
だけなのです。
結びに代えて
労働生産性向上は、現場改善のテクニック競争ではありません。
それは、
経営者が「何を価値とし、何を選び、何を手放すか」を決め続けるプロセスそのものです。
このシリーズが、その判断を少しでも整理するきっかけになれば幸いです。
もし、自社の労働生産性や価値づくりの整理に悩まれている場合は、一度、第三者の視点で構造を整理してみるのも一つの方法です。
善コンサルティングオフィスでは、実行・定着に重きを置いた伴走支援を行っております。ぜひ一度ご相談ください。
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